Nobel

イラスト7

STORY7

俺は酷く興奮していた。
目の色素が薄くなってしまったのか無くなってしまったのか目前が眩み気が遠のく。
それが本棚全てを奴の名前で埋め尽くされていた。この世界を酔わせ虜にしてしまっている人物。そんで、俺がついさっき大嫌いになった奴の名前!

ハイデル・ラドクリフ

苛々しながらも、俺はハイデルの本に手を伸ばそうとした時だった。
店に車を横付けさせ、ひらひらとした薄いピンクのミニドレスを着た女が二人騒ぎながら降りてきた。
俺は伸ばした手を女の腕に向け咄嗟的に隣の棚へ身を隠した。
ハイデルの名前を嬉しそうに吐き出しながら此方へ向かってきたからだ。
「あの子たちはハイデルのファン。そしてアイドル」
ヘーゼル女が呟く。
「アイドル?!意味がわかんねぇー」
「レースの時に歌うの」
全身からこれでもかという程の溜息と呆れた言葉が出る。
そんな俺に追い打ちをかけるかのように平然な顔で言い放った。
「ああいう服好きなの?」
「!?そんな訳ないだろ!」
「冗談だよ~顔赤い~」
「うっせ――!」
「あははは」
くそう、レースに無理矢理こいつを出してやりてぇ…。
そんな俺達をよそにアイドルは新作と思われる平積みされているものに手を伸ばし又も騒ぎながら会計を済まし車に乗って夜の街へと消えていった。
本のタイトルは、あいつらしいといっちゃあその通りのものが並んでいる。
頭が痛くなる。

・しらべ
・悲哀
・シメエル
・溢れる愛
・消えゆく快楽
・幾億の命
・燃える愛

他にも幾つもあるが、目に見るだけであいつの顔が浮かんで腹が立つ!
あの低く通る声に、さっきみたいな奴らが群がる姿が今にも想像できる。
「もう出よう」
そうヘーゼル女に声をかけ店の出口に向かって踵を返すとレジから中年の親父が俺に声をかけてきた。よく見ると右手に何かを握っている。
何だ?と首を傾げようとしたその時「これを、、、」それだけ言って、俺に向かってスナップをきかせ、それを俺の方へ投げてきた。
「あぶねっ!」
俺は身を捩りどうにかキャッチ出来た。
あの親父…!と睨みを返してやろうと見やったら、何か含んだ眼をし口元には笑みを浮かべている。気味が悪い…。
此処で読むのは辞めよう…

私の欲望を駆り立てるはレースのみだ  
葵光太 せいぜい場を盛り下げないように  今宵 レースで逢いましょう
ーハイデル・ラドクリフー

「いいぜ―――」
「私も応援しにいくからね!」
「…離れてろって言ってたのに覗き見かよ」
「いいでしょ!私は光太をサポートする!」
「はいはい冗談はそこまでで」
闘志が燃える。青い落ち着いた炎。 今までの靄がかかったような気分はすっかりと消えていた。 俺は、絶対に負けない。 闘志が懇々と胸に湧く。
その日のレースで俺はハイデルに勝つ事が出来た。否、安易な事。その為に来たのだから…。
ハイデルはレース後すぐに姿を消した。
それから家に帰ると真っ黒の服を着た男が又、封筒を持って現れてすぐ消えた。 そこには、「まぁまぁですね」とだけ書かれていた。
「そんな事くらい口で言えってんだよ!」

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