Nobel

イラスト8

STORY8

そんな過去があった。
というか、何かがひっかかる。
「はい!茄子入りミートスパお待たせ」
「真里島お前、おせぇんだよ!」
「ん?」
真里島は、聞こえないふりをして茄子入りミートスパをゆっくりとテーブルの上に置き、カゴに入ったフォークとスプーンを置いて俺の目の前に座った。
俺は、誰のせいで昔話を思い出したと…まで喉元まで出たが飲み込んだ。
湯気のたったパスタを見たら肩の力が抜けた。

一息ついて、開けていたパソコンを閉じフォークに手を伸ばしソースに絡めながらパスタを口に一口。
「うめぇ」
「昨日のレースも圧勝だったね」
真里島がウインクをしながら嬉しそうに言った。それに俺は一言「当然」と返し、パスタを完食し店を出た。
店から二筋程歩いて、御馳走様と言うの忘れていた事に気づいた。
ま、いいか。どうせ後で逢うし。

レースはいつも空が紺色に染まった頃。
観客は凄い数で、どれも手入れの行き届いたマシンがずらりとスタートラインの前に並ぶ。
俺のコースはいつも一番だ。
ストレージの世界へ来て、一度も負けた事はない。
負けるわけにはいかない。負けるわけがないからだ。
ハイデルは毎回参加している訳じゃないみたいだけど、こっちでは随分優遇された人間みたいだった。小説家でレースにも出てかなりの人望、否、ゾン望がある。
テクニックは俺も奴も引けはない。
だけど俺には更に分厚いレールがある。
それは、このマシンをピットしてくれているのは誰でもないカモ博士だからだ。
俺がいつも使っているパソコンも博士の作ったものだ。まだ誰も持っていない俺にぴったりのデザインに性能。
これが俺の乗るマシンに搭載されている。
俺に上手く呼応しハッキングがスムーズにできる。
ハンドルを握る前に目を閉じてストレージの暗闇に挨拶をする。
グローブを手に馴染ませ一呼吸。
「今日も行くぜぇえ!」
スタートの合図が入る前のこの高揚感がたまらない。一人が噴かすと瞬く間に音は増大し命が爆発する様な音楽となって屋根のないレース会場にマシンの爆音が夜の空に飛んで行く。
フォオオオオオオン――――とマシンのエンジン音が街に響き渡ったらスタートラインには白い煙が舞い上がりレースは開始される。
皆、各々にレース会場から街へと散ってゆく。
仕掛けのタイミングを計る為だ。
俺の体に血が流れ、肉体がある死はどんなものなのかと日に日に観客は増えレースに出る奴も増えたけど、そんなの無駄足だ。
俺は絶対に死なない。

暫く走り後方から誰も来ていない事を確認しマシンを止める。
勿論エンジンはかけたままで。
それから、マシンに搭載されたモニターに目をやる。
目には見えなくてもかなりの数が俺の周りにいる事が確認できる。
俺をスピンアウトさせようと、妖しく影を忍ばせる影が十数人。
口元が引き締まる。
エンジンは動いていてもリアルの世界とは違ってプログラムさえ読み込んでいれば、極々小さな音にまで下げる事が出来る。
皆、俺をスピンアウトさせようと必死で、ぐるになってやがる。
まぁ、固まってくれてる方が時間かからなくていいんだけど。

キーボートの上で指先が躍る。
「これでオッケーっと」
パコっと一押ししてキーボードからハンドルに握りかえ、目を瞑る。
これから無次元操作に入るからだ。

これが、このレースの醍醐味。

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